シネマトグラファー江夏由洋が、MKシリーズの魅力について語ります。
今回のMKレンズシリーズが新しい時代の扉を開けると実感しているのは4つの理由がある。一つは、スチルレンズでは実現しにくい光学性能、メカニカルな機構、すべてがシネマレンズ規格であるということ。もう一つはズームレンズであるにも関わらず単焦点に肉薄する画質を捉えるということ、3つ目に、驚くほどコンパクトで軽量であること。そして最後に、驚きの価格である。
今回は、一つ目に挙げた光学性能とメカニカル機構に焦点を当てたい。
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シネマレンズとスチルレンズの一番大きな違いは、アイリスがリニアに動かせるかどうかという点だ。スチルレンズの多くは1/2や1/3刻みのステップでアイリスの大きさが変わるに対し、シネマレンズはシームレスにアイリスの調整を行える。最適な露出を狙うには、絞りをリニアに動かせるのは非常にありがたいと感じる人は多いだろう。そしてMKシリーズは全ズーム域において開放T2.9(F/2.8)の明るさを実現し、この開放値T2.9においても画質には大きな自信があるというのが素晴らしい。
さらに日本のレンズ技術の最高峰であるFUJINONの技術がMKシリーズにはぎっしりと詰まっている。ズームレンズというのはそもそも単焦点レンズに比べて圧倒的に設計が難しい。物理的に構成されるガラスを動かすことで焦点距離を変える仕組みになっており、稼動する範囲すべてで画質の保証をしなければならないからだ。
例えば写真用のズームレンズの場合、焦点距離によってフォーカスに位置がずれてしまう「引きボケ」がよく生じる。つまり、ズーム位置を変える度にフォーカスを確認する必要があるということだ。動画を撮影する場合にこれは非常に厄介な現象で、ズームを動かしてフォーカスがずれるということは当然ズームを活かしたコンポジションは使えなくなる。またフォーカスの確認が常に要求されるとなると、ドキュメンタリーの動画撮影などの場合カメラマンへの負担は相当なものだ。
MKレンズはこの「引きボケ」が一切ない。一度フォーカスを決めれば、どのズーム域においてもその位置がずれることはないのだ。もちろんENGのレンズのように、一番ピントがわかりやすい最テレ端でフォーカスを調整すれば、後は自由に画角を変えることができる。
さらにズームによる光軸のズレも一切ない。光軸のズレというのは、ワイド端の中心位置とテレ端の中心位置がずれる現象なのだが、MKレンズは完璧な光学ズームを実現してくれる。正直これには驚かされる。
そしてMKシリーズの一番の特長は「ブリージング」の問題を見事に解消していることだ。「ブリージング」はほとんどのスチルレンズで起きる現象で、フォーカスを動かす際に微妙にコンポジションのサイズが寄り引きして、画角がずれてしまうことを言う。動画を撮影する際には、ワンカットの中でフォーカスは常に操作されているため、このブリージング起きると映像が少々醜いことになる。当然動画のために設計された高価なシネマレンズの数々はブリージングが起きないようになっているのだが、静止画を捉えるために設計されているスチルレンズではこういったブリージングがよく起きてしまうのだ。MKレンズはズームレンズでありながらブリージングを排除しており、その高精度な設計がうかがえる。
カニカル設計も「完全シネマ仕様」だ。1Kgを切る重量で、かつ大きさもペットボトル程度にあるにもかかわらず、そのデザインはFUJINONの上位シネマシリーズであるHK、ZK、そしてXKといったPLマウントのラインアップをそのまま踏襲している。Eマウントに対応したことで、軽量化と同時により質の高い光学設計を実現しているのだが、筐体のメカニカルは従来のスチルレンズとは全く違う構造だ。
まずはフォーカスの回転角が200度を確保されたため、今まで大変難しかったファインフォーカスがより行いやすくなっている。ミラーレス用の電子接点のスチルレンズの多くは、フォーカスを動かす速度でフォーカス位置が変わるだけでなく、角度も非常に狭いため、微妙なフォーカス操作は困難を要した。そのためオートフォーカスに頼らなければいけない場合が多かったのではないだろうか。MKレンズのフォーカシングは、そのトルク感も抜群で、満足度の高い操作を叶えてくれる。
またアイリス、ズーム、フォーカスの3連のギアピッチも0.8Mにしっかりと統一された。このため殆どのシネマ周辺機器をそのまま使うことが可能だ。ギアそのものがないスチルレンズでフォローフォーカスを使用するとなると、別途ギアを取り付けるなど、多くのカメラマンが様々な工夫を強いられることが多かった。もちろんフォーカス操作にも「遊び」が生じてしまい、いろいろな不便は皆さんも経験があるに違いない。MKレンズであればストレスいらずで、シンプルかつシネマ従来のシステムを組むことが可能だ。
光学性能や機械性能、レンズの設計の根本からシネマレンズとスチルレンズは正に似て非なるものといっていい。それだけ「動画撮影」に必要な性能や、機能が多くある。スチルレンズをつかったワークフローが求められる現場で、MKレンズシリーズは間違いなく新しいデジタルシネマの時代を切り開くことになるだろう。
次の記事では実際に京都で行った撮影の様子を交えながら、実践的なMKシリーズの使用感をお伝えしたい。PLマウントのレンズシリーズと見分けがつかないほどの作品をお見せできればと思っている。お楽しみに。