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日本

工場 環境安全グループ リーダー

排水処理のスペシャリストとして
新たな製品づくりを支える

文字どおりの“水際”で絶対に事故を起こさないために

富士フイルムの工場などでは1,000種を超える化学物質が使用されている。排出する際には、環境を守るために微生物を使って分解処理し、すべてを無害化してから排水する必要がある。万が一、有害物質が近隣の河川などに流出してしまうようなことが起きてしまったら、社会や会社に及ぼす影響は計り知れない。
工場の排水を適切に処理し環境を守り抜くのが、彼の仕事だ。大学時代は理工学部で排水処理についての研究に関わっていた。
「私がまだ子どもだった当時、マスコミで大きく取り上げられていた水俣病や四日市ぜんそくなどの公害問題が、この道に進むきっかけになりました」
公害を起こしてはならないという強い想いは、早くから彼の人生の核になっていた。
その後、富士フイルムに入社した当初は専門とは異なる生産部門に配属され、現在の環境安全グループに異動になったのは13年前のこと。彼は異動後のわずか1年足らずで、実務と並行して公害防止管理者、環境計量士などの資格試験に自ら挑戦し、矢継ぎ早に資格を取得していった。合格率が2割を切る難関の国家資格・技術士(環境部門)にも2度目のチャレンジで合格した。彼の努力は、この環境保全の仕事が相当の専門知識を必要とするものであることを物語っている。

守らなければならないルールと生み出したい製品の狭間で
研究者の想いを叶えるために立ち上げた実験室

あるとき、ひとりの若手研究者が、彼のもとにやってきた。その若手研究者は、新しい製品を開発するために、新しい化学物質の使用を許可してほしいと彼に訴えた。しかし、若手研究者が名前をあげた化学物質は、無害化して安全に排水することが難しいものだった。
「今の会社のルールでは使用できないことを伝えると、真剣な眼差しで『僕はこの製品に会社生命をかけているんです』と食い下がるんです。そこまで言われたら、何とか協力しなければと思うのは当然です」
会社として新たな化学物質の使用を許可するためには、その化学物質を無害化する処理方法を見出し、安全に排水できることを証明する必要がある。ほかの化合物と組み合わせて無害化できないか。排水前に、熱をかけて変質させてはどうかなどなど。解決するための条件を何とか見つけ出そうと、彼は社内外の情報収集に奔走し、その研究者とお互いの知見やアイデアを日夜ぶつけ合いながら知恵を絞り続けた。
解決策を見出すためには、何パターンもの実験をひたすら繰り返す必要がある。環境保全のルールは絶対だが、会社として無尽蔵に多くの労力とコストを費やすわけにはいかない。
彼は、工場内の一角に排水処理の検証を行う実験室をつくることを会社に提案した。実験室を持つことで、今回の件を解決するだけでなく、より安価な薬品による手法を発見したり排水処理効率を上げるなど、将来に渡って大幅なコストダウンが期待できる。さらに、自分たちのノウハウを蓄積することで、外部機関に頼らず、現場での迅速な対応も可能になる。「環境保全担当は環境を守るだけが仕事じゃない。新製品開発などにもっと積極的に関わり、貢献ができるはずだ」。そんな強い想いを胸に日々社内を説得し続けた結果、彼の熱意に共感した上司が強力な味方になってくれ、彼は何とか会社の了承を取り付けることができた。
彼はその実験室に約1/40万スケールのミニプラントを用意し、時間をかけて処理方法を検証できる場を準備した。そこからは、根気のいる地道な作業の繰り返しだ。さまざまな条件でつくった排水のサンプルを抽出し、顕微鏡で調べ、検査機で確認して、化合物を食べてくれる微生物や物質の日々の変化を数値化していく。微生物を相手にしているので、水質や温度など細かい条件にも影響を受けやすく、同じ実験をしても毎回一定の結果が得られるとは限らない。実験に失敗すれば装置を全部洗って一からやり直し、良い結果が得られた場合であっても、同じ条件で再現できるか何度も念入りに確認する。それをひたすら繰り返し、必要な条件を徹底的に探り突き詰めていく。
半年後――。ついに彼らの努力は実を結び、試行錯誤の末に考案したオリジナルの処理方法で、微生物によってその化学物質が安全に排水できることが実験で証明された。
「『これなら進めていいですよね』と、その研究者とともに自信を持って会社に提示できたときは、誇らしい気持ちでいっぱいでした。一番嬉しかったのは、その研究者に『あなたがいてくれてよかった』と言われたこと。役に立てたことが実感できた瞬間で、諦めず挑戦して良かったと思いました」
そうして生み出された製品はいま、富士フイルムの独自技術を活かした主力製品に育ちつつある。マネージャーに昇格したその研究者は、今も彼に相談にやってくることがある。新しい案件を携えてやってくる彼の眼差しはマネージャーになった今も変わらず真剣で、彼も真摯にその課題にともに向き合う。「今回も、“会社生命をかけて”だよな」が二人の合言葉だ。
「一緒に汗をかいて突破口を見出した製品や担当者が、認められ成長していく様子を見るのは本当に嬉しい」と彼は語る。

メーカーの一員として“後の処理は任せろ”
  • * 部署名・インタビュー内容などは、2016年8月時点の取材内容に基づきます。