社会にとってどのような存在に?“目指すべき企業の在り方”とは
「リーマンショック以降、企業に対する社会の見方は厳しさを増し、『企業は利潤を追求するだけではサステナブルでない』という考え方が広がっています。CSR(企業の社会的責任)の推進とは、まさにこれからの企業の在り方を提案、発信する仕事です」
CSR活動は、従来はコンプライアンスや環境対策など「社会の要請にこたえ責任を果たす受身的な姿勢」が中心にとらえられていたが、近年「社会課題を認識し、より積極的にその解決に向けてポジティブに関与していく姿勢」を世の中に宣言するグローバル企業が増えてきている。企業が技術やサービスの力で、社会の課題解決に積極的に取り組むことが求められている時代──。彼女が挑むのは、従来からのCSRの考え方を変革し、「事業を通じた社会課題解決を積極的に目指す」企業姿勢を、経営方針と一体となって世の中に宣言すること。そしてその新たな視点を社内に浸透させていく仕事だ。
富士フイルムだからこそできるはず!悔しさをバネに一念発起
彼女は2012年にCSR部門に配属され、富士フイルムが毎年発行している冊子『サステナビリティレポート』の制作を担当することになった。「CSRの素人だった」という彼女は、社員や専門家に話を聞き、「CSR―企業の社会的責任とは何か」を学ぶところからのスタートだったという。レポート制作に当たり、富士フイルムの特長ある社会課題解決に向けた活動を掲載したいと社内を取材したとき、嬉しい驚きがあった。
「自分の仕事やサービスを通じて社会の役に立ちたいと願い、考え、日夜頑張っている社員が大勢いることを知りました。想いを熱く語る彼らを目の当たりにして、手前味噌ですが、なんていい会社だ!と改めて実感しました。富士フイルムは、独創性と先進性で多くの事業を開拓してきました。その社風の基盤には、このような多くの社員の社会への熱い想いがあるのだと感じ、当社のCSRとして目指すべき姿の原石を見つけた気がしました。これをどう磨き、CSR宣言として、社内外に発信すればいいのか?課題の大きさに戸惑い、また、できていないことに自分自身が悔しさに駆られました」
社員の熱い想いの点をつなげ、会社全体のメッセージとして発信することで、もっと大きなうねりにできないか。社会課題解決に積極的に取り組む富士フイルムの存在を世の中に強力にアピールするとともに、社員にとっても社会課題解決という視点からの発想と働く意義を再確認し前向きに取り組むパワーになるはずだ──。「CSRの力で会社を変えていけるかもしれない」という強い想いを胸に、彼女の挑戦が始まった。
取り組む意義が伝えられるか……自問自答の戦い
3年ごとに発表しているCSRの中期計画立案の機会を活用しようと決め、彼女は、準備を開始した。富士フイルムが事業を通じて取組むべき社会課題をどのように重点化し、目標を定めていくのか。まず、CSRで要請される社会課題を列挙、当社と関係性の深い課題の抽出を行った。だが、社の特長を活かした課題設定にはなかなか結びつかない。それに事業活動を通じた貢献を宣言するとなると、各事業部の積極的な関わりが不可欠だ。まず、事業部に「製品・サービスを通じた社会課題の解決」をCSR計画として宣言することを納得し協力してもらう必要がある。
「これからの企業活動には自ら取組む積極的なCSRが必要なこと。そして“社会課題解決の視点”をもつことは、事業を推進する力になること、そしてそれがお客さま、社会からの評価につながる事を理解してもらえるよう考えました。社外先行事例も参考にし、各事業部の活動と突き合わせて、資料を何度も作っては修正を繰り返しました。事業部を説得するためでもありますが、自分がやろうとしていることは本当に正しいのか、自分と真正面から向き合うプロセスでもありました。納得感の持てる形を描き切れず、誰に聞いても正解が見えない作業で、悩みながらの試行錯誤の日々でした」
その彼女が、ようやくきっかけをつかめたのは、彼女の説明をきいた、ある事業部長の「これいいね!」という一言だった。
「自分達が目指していることは、まさにこれなんだよと言って、協力を約束してもらえました。その言葉に励まされて、ほかの事業部長へも説明を進めたところ、驚くほど前向きな賛同を得られて……。受け入れられるか不安でしたが、臆せず踏み出してみることが大事だったのです」
そして各事業部の積極的協力を取り付けた彼女たちのチームは、環境・健康などの4つの社会課題と富士フイルムの事業をリンクさせた中期CSR計画『Sustainable Value Plan 2016』を策定し、2014年5月に発表した。
相手の立場で話す。でも、自分の言葉で伝え続けていく
まったく新しい視点の考え方が受け入れられた秘訣は何だったのか。
「当たり前かもしれないですが、まずは相手の立場にたって相手が理解しやすい言葉で話すこと。例えば他社事例ひとつとっても、それぞれの事業部にあった競合他社の事例を説明するなど毎回工夫していました。
それとは逆に聞こえるかもしれないですが、借りてきた言葉ではなく、如何に自分の言葉で自信を持って話せるかも大事です。他社のCSR担当者と交流していても、CSRの活動は概念的で、社内の理解を得られていないと感じている担当者がたくさんいます。必死に考え抜き、『うちのCSRはこれだ』と自信を持って意義を語れるようになること。それを本気で伝えていけば、きっと賛同してくれる人は見つかります」
その言葉どおり、活動を続ける内に「社会に貢献する」ということを思い起こすことで「働く意義」を再認識できたという社員も増えてきたという。
「先日ある社員から、『自分が何のために働いているのかヒントをもらって前向きになれた。ありがとう』と声をかけられました。『中期CSR計画--SVP2016--』で発信したメッセージに込められた意味が少しずつ社員に浸透し、理解されつつあることを実感しています。CSRとして目指すべき姿の原石が光り始めているのかもしれません。社会課題解決を目指す──。これは簡単に達成できる目標ではありませんが、「社会に役に立つ」という熱い想いと知恵をつなぎ合わせれば、大きな力が生まれるはず。この流れをさらに育て、より大きな社会課題を解決できる企業へ成長していきたい。目標達成に向けてメッセージを発信し続け、これからも社員とともに粘り強く取り組んでいきたいと思います」