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高まる在宅医療のニーズ
在宅医療のニーズが急速に高まっています。高齢患者が年々増加しているのに対し、現状ある医療機関の病床だけで対応していくのは困難となってきたため、国の施策も在宅医療の充実に重点が置かれるようになってきています。
また、自宅で最期を迎えたいというのニーズも高まっています。厚生労働省の「平成29年度 人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」によると、約7割が、自宅で最期を迎えたいと回答しました。「住み慣れた場所で最期を迎えたい」「最後まで自分らしく好きに過ごしたい」「家族等との時間を多くしたい」などが主な理由です。
こうした状況の下、国は要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい生活を最期まで続けることができるように、地域内で医療機関や介護事業所などが助け合う体制、「地域包括ケアシステム」の構築を各地域で進めようとしています。この地域包括ケアシステムの中で、核となる役割を果たすのが在宅医療なのです。
医療機関が提供するのは訪問診療と往診
在宅医療とは、地域の医療機関や訪問看護ステーション、介護事業所などが手を組んで患者の在宅療養を支える仕組みの総称です。医療機関が主に提供するのは、訪問診療と往診です。それらを提供しながら、図に示したような ①退院支援 ②日常の療養支援 ③急変時の対応 ④看取り などを行います。
在宅医療提供体制のイメージ
訪問診療の実施件数は、近年、増加傾向にあります。2012年の全国の月当たりの訪問診療のレセプト件数は48.3万件でしたが、2020年には81.9万件にまで伸びています。
この伸びは、訪問診療に積極的に取り組む体制を整えた在宅療養支援診療所(在支診)、在宅療養支援病院(在支病)の増加とも関係しています。2020年7月時点で在支診は全国に1万4615施設、在支病は1546施設あります。
クリニックによる在宅医療では最初から在支診での訪問診療提供を目指さなくてもよい
クリニックで在宅医療に取り組む場合、最初から在支診として訪問診療の提供を目指す必要はありません。
在支診は「24時間対応」が1つのキーワードとなっています。その基準は、「24時間連絡を受ける医師または看護師がいる」「自院または他の医療機関、訪問看護ステーションなどと連携して24時間往診・訪問看護が可能な体制を確保する」というものです。
クリニックでの在宅医療では、この24時間対応の体制確保が大きなハードルとなり、訪問診療に踏み込めないと考えるクリニックは少なくありません。しかし、在支診の届け出をしなくても、言い換えれば24時間対応をしなくても、訪問診療を行うことは可能です。
まずはクリニックの昼休みに訪問診療を
在支診の体制にこだわらなければ、訪問診療のハードルはとても低くなります。在支診の報酬を算定しない訪問診療では、24時間対応は必要なく、夜間・休日の対応も義務にはなりません。定期的な訪問診療が対応できればよく、緊急時の往診義務も生じません。
この場合、外来で症状が安定している患者さんで足腰が悪く通院が困難な方、認知症があって通院を嫌がってしまう方等が、対象として考えられます。がん末期の患者さんなどは24時間対応が必要になるため、対象とするのは難しいです。
在支診の体制をとらず訪問診療を始めるには、まずはクリニックの昼休みを利用するのがよいでしょう。最初はクリニックにとって無理のない範囲で、在宅医療を必要とする患者に訪問診療を始め、訪問診療が軌道に乗ってきたら、週のうち、在宅に関わる時間や日数を増やしたり、常勤医や訪問看護師を増やすなど、体制充実を図り、在支診に取り組むという流れが望ましいと考えられます。
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