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FUJIFILM Finechemical News
研究者へのインタビュー

ブロッコリー由来成分「スルフォラファン」による抗肥満効果の分子機構の解明

今回は、東京農業大学大学院 応用生物科学研究科 栄養生化学研究室の小髙 愛未(こだか まなみ)博士にお願いしました。

栄養生化学研究室では、1:食材の新たな栄養機能評価の検索を目的とした研究 2:代謝産物がシグナルとして生体内に及ぼす影響の解析 3:細胞の物質取り込みや癌抑制機構の解明を中心とした細胞内でのイベントを分子レベルで解析する研究 4:生体にとって有用な物質を探索するケミカルバイオロジーの研究という4つのテーマについて研究活動を行っています。本プレスリリースは、体内の脂質代謝を調節している転写因子、SREBPについてで、このSREBPが過剰に活性化されると脂質合成を過度に促進し、脂肪肝やインスリン抵抗性を惹起することが知られており、生活習慣病予防のためにはSREBP活性を適度に抑制することが望まれています。そこで本研究ではSREBPの活性を低下させ脂質合成を抑制する食品由来成分として、ブロッコリー由来のイソチオシアネートであるスルフォラファンがSREBPの活性を制御することを発見し、その作用が抗肥満に寄与することを示すとともに、分子レベルでの作用メカニズムを解明しました。

この研究成果は、「Scientific Reports」誌およびプレスリリースに公開されています。

Sulforaphane suppresses the activity of sterol regulatory element-binding proteins (SREBPs) by promoting SREBP precursor degradation

Shingo Miyata, Manami Kodaka, Akito Kikuchi, Yuki Matsunaga, Kenta Shoji, Yen-Chou Kuan, Masamori Iwase, Keita Takeda, Ryo Katsuta, Ken Ishigami, Yu Matsumoto, Tsukasa Suzuki, Yuji Yamamoto, Ryuichiro Sato & Jun Inoue

Sci Rep 12, 8715 (2022)
DOI: 10.1038/s41598-022-12347-6

研究室を主宰されている井上 順 教授より小髙博士についてコメントを頂戴いたしました!

小髙さんは、私が東京農業大学へ着任後、博士研究員として研究グループに参加してくれました。農大には多くの学部生がいるのですが、彼らの研究の面倒を見ながら、今回の課題も着実に進めてくれました。外部の先生方との共同研究にも積極的に関与し、論文の査読者からの厳しい要求にも確実なデータを積み重ねて応えてくれました。現在も複数のテーマを並行して進めてくれており、私の研究室からの論文投稿において、重要人物の一人であり、今後の展開に期待しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

ブロッコリーに含まれるスルフォラファンという成分が、脂質代謝を制御する転写因子SREBPの活性を抑制することで抗肥満効果をもたらすことを明らかにした研究です。

SREBPは、脂質代謝を制御する転写因子です。SREBPの過剰な活性化は脂質合成を過度に促進し、脂肪肝や、糖尿病へと繋がるインスリン抵抗性を引き起こします [1]。したがって、生活習慣病予防のためにはSREBP活性を適度に抑制することが重要です。

私たちは、SREBPの活性を抑制する食品成分としてスルフォラファンを見出しました。スルフォラファンは、ブロッコリーに含まれるイソチオシアネートの1つで、抗酸化作用や抗がん作用があることで注目されました。これまでに抗肥満効果も報告されていますが、その詳細なメカニズムは解明されていませんでした。

本研究では、スルフォラファンが前駆体SREBPのC末端側のポリユビキチン化を促進し、ユビキチン-プロテアソーム経路を介した分解を引き起こすことで、SREBP活性を抑制することを明らかにしました。さらにこの分解は、これまでにスルフォラファンにより活性化されることが報告されているKeap1-Nrf2経路を介さずに起こることを示しました。

この成果は、生活習慣病予防に関して科学的根拠に基づく新たな機能性食品の開発へ応用されることが期待されます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

ユビキチン化部位の特定に時間を要しました。SREBP変異体のプラスミド作製はもちろんですが、質量分析を用いてスルフォラファンによってユビキチン化している部位の検出も試し、複数のアプローチでユビキチン化部位の特定を目指しました。結果として、N末端側のみのSREBP変異体で分解およびポリユビキチン化が起こらないことが明らかとなり、スルフォラファンはSREBPのC末端側のポリユビキチン化を促進していることを示すことができました。変異体のクローニングを何種類も行う、という泥臭いかもしれないけれどコツコツ進める作業で、本研究の重要な部分を示せた点は感慨深かったです。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

Nrf2のノックダウン実験に苦労しました。ノックダウン自体は問題なかったのですが、Nrf2がノックダウンできていることをウェスタンブロットで示そうとしたら良い抗体に巡り会えず、qRT-PCRで示したら今度はreviewerに指摘を受け、ウェスタンブロットに再挑戦し…と10回近くトライしたと思います。最終的に、ウェスタンブロットの結果と併せて、文章で丁寧に説明することで納得してもらえました。

これまで、スルフォラファンはKeap1-Nrf2経路を介して様々な生理作用を発揮するとされてきました [2]。しかし、本研究で明らかにしたスルフォラファンによるSREBPの分解はKeap1-Nrf2経路を介していません。通説と異なることを示すためには、明確な結果と丁寧な対応が必須なのだと実感しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

現代の日本人は、実際の寿命と健康寿命に約10年の開きがあり、その約10年間は生活習慣病をはじめ、様々な疾患による入院や寝たきりなどにより、誰かの力を借りないと満足に生活できないと言われています。何歳になっても誰もが自分の力で自分らしく生きられるように、健康寿命を実際の寿命に近付けることを目指し、様々な疾患を「治療する」のではなく「予防する」ことに重点をおいた研究に取り組んでいきたいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本研究を論文という形にするまでに、多くの方の協力やアイデアが必要不可欠でした。研究において時に視点を変えることや、幅広く興味を持つことが大切なのはよく実感することではありますが、本研究には異なる分野を専門とする先生との繋がりや、異なる背景を持ったメンバーの経験があったからこそ実現した部分がありました。一人で黙々と考える時間も必要ですが、何か困ったことが起きた時に助けてもらえるような関係性を、何気ない会話から様々な人と構築しておくことが、後々大きな差になっていくと感じました。今やっていることに意味があるのかと疑問に感じても、いつかその「点」が「線」になる時が来ると信じて精進することが、研究はもちろん、何かを成し遂げるには必要なのだと思います。

最後になりますが、日々ご指導を頂いています井上順教授、山本祐司教授、鈴木司准教授をはじめ、本研究にご助力いただきました皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

参考文献

[1] Knebel, B. et al. Liver-specific expression of transcriptionally active SREBP-1c is associated with fatty liver and increased visceral fat mass. PLoS ONE 7, e31812. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0031812 (2012).

[2] Eggler, A. L., Gay, K. A. & Mesecar, A. D. Molecular mechanisms of natural products in chemoprevention: Induction of cytoprotective enzymes by Nrf2. Mol. Nutr. Food Res. 52(Suppl 1), S84-94. https://doi.org/10.1002/mnfr.200700249 (2008).

研究者の略歴

名前:小髙 愛未(こだか まなみ)

所属:東京農業大学大学院 応用生物科学研究科

略歴:2010/03 北里大学 理学部 生物科学科 卒業
2012/03 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 修士課程修了
2018/03 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 博士課程修了
2018/04 東京医科歯科大学大学院 病態代謝解析学分野 研究補助員
2019/04 – 東京農業大学大学院 応用生物科学研究科 博士研究員

掲載記事について

本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しております。
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