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日本
FUJIFILM Finechemical News
研究者へのインタビュー

複雑なモノマー配列を持ったポリエステル系ブロックポリマーをワンステップで合成

今回は、北海道大学 大学院工学研究院 応用化学部門 高分子化学研究室(佐藤研究室)の磯野 拓也(いその たくや)准教授にお願いしました。

佐藤研究室では、分岐構造や環状構造を有する特殊な高分子の合成法や刺激応答性、導電性を有する機能性高分子の開発, 複数の異なるポリマーが化学的に結合したブロック共重合体の合成と相分離挙動の解析,機能性を有する環境低負荷の高分子材料の創製とその応用を行っております。本プレスリリースの研究内容はブロック共重合体についてで、様々な性質を発現できるのがブロック共重合体の長所である一方、その合成法は複雑であり、配列の制御や多段階に及ぶ合成プロセスが課題とされています。さらに、ブロック共重合体を含め、現在使用されている高分子材料のほとんどは非生分解性高分子が主であり、ポリエステルなどの生分解性材料への早期転換が切望されています。研究グループは、3つの原料を反応させることでポリエステルからなるトリブロック共重合体をワンステップで合成する手法 (セルフスイッチ重合) を報告しています。この方法では、従来に比べ安全なカルボン酸塩を触媒に利用していることから環境及び生体に低負荷な合成手法としての利点があります。そして今回、セルフスイッチ重合に利用可能な新しい原料を発見し、新たに四成分からなるブロックポリマーを簡便に合成することに成功しました。

本研究の概要図:原料の種類や割合を変更することで、多様なブロック共重合体の簡便合成に成功 (出典:北海道大学プレスリリース)

この研究成果は、「Journal of the American Chemical Society」誌、および北海道大学プレスリリースに発表されました。

Multidimensional Control of Repeating Unit/Sequence/Topology for One-Step Synthesis of Block Polymers from Monomer Mixtures

Xiaochao Xia, Tianle Gao, Feng Li, Ryota Suzuki, Takuya Isono, and Toshifumi Satoh

J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 39, 17905–17915

DOI: 10.1021/jacs.2c06860

研究室を主宰されている佐藤 敏文 教授より磯野 准教授についてコメントを頂戴いたしました!

磯野君とは彼が学生の時からの付き合いですが、有機化学を駆使した高分子合成により、これまでに数多くの特殊構造高分子を作ってくれました。研究室のスタッフになってからは、高分子合成に磨きをかけるだけでは無く、高分子構造解析分野にも強い興味を持ち、これまでに、光散乱測定による自己集合体の解析から放射光や中性子による高分子微細構造解析まで幅広い知見と経験を身につけてきました。まさに、高分子合成と高分子物性の融合分野を開拓できる新進気鋭の研究者です。今回、本研究を学術論文として発表できたのは、筆頭著者である夏小超博士(現在、中国・重慶理工大学講師)のハードワークと磯野君のこれまでの経験からの豊かな発想によるものと思います。今後は、本研究のテーマの一つでもあった脱炭素時代に向けたグリーンでサステナブルな高分子合成プロセスを用いて、誰も思いつかないような機能と物性を持つ新奇な高分子材料を見つけてしてほしいと思います。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

プレスリリースの対象となった論文では、4種類のモノマー混合物(環状酸無水物2種類、エポキシド、オキセタン)から様々なモノマー配列を持ったポリエステル系ブロックポリマーをself-switchable重合によってワンポット・ワンステップで、しかも、カルボン酸塩という極めて単純な触媒系で合成できることを報告しました。

複数の異なる高分子セグメントから構成されるブロックポリマーは熱可塑性エラストマーや接着剤、相溶化剤、ナノパターニング材料など様々な分野で活躍する重要な高分子材料です。しかし、一般に、それらを合成するためにはリビング重合を駆使し、逐次的にモノマーを添加していくといった多段階の工程が必要でした。これに対して、self-switchable重合は複数のモノマー混合物からある特定のモノマーの重合が終わると、自動的に別のモノマーの重合に切り替わってブロックポリマーを生成するため、ワンポット・ワンステップの効率的合成法として期待されています。また、メカニズムやレベルは全く異なりますが、細胞中のモノマー混合物(ヌクレオチドやアミノ酸)から決まったモノマー配列の核酸やタンパク質が整然と合成される生命システムを模倣する系としても興味が持たれています。

これまで報告されているself-switchable重合では、我々の先行研究も含め[1][2]、3種類のモノマー混合系(環状酸無水物、エポキシド、ラクトンなど)が限界でした。一方、今回の報告では、オキセタンが第4のモノマーとして有用であることを見出し、self-switchable重合を4種類のモノマー混合系に拡張することに成功しました。これにより、環状酸無水物(A、A’)、エポキシド(B)、オキセタン(C)の混合物から、各モノマーのモル比を調節することでABABABAB…A’CA’CA’CA’C…やABABABAB…ACACACAC…A’CA’CA’CA’C…、ABABABAB…A’BA’BA’BA’B…A’CA’CA’CA’C…などの複雑なブロック配列を簡便に作り分けることに成功しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

Self-switchable重合によって各ブロックの構成モノマーを自在に制御できるようになったことは本論文の重要な成果の一つです。この特徴のインパクトを示すため、各ブロックの極性を自在に制御してナノスケールで相分離したミクロ相分離構造を発現するブロックコポリマーを合成したいと考えました。しかし、なかなか思ったようにミクロ相分離する組み合わせのモノマーが見つからず、苦戦しました。論文の骨子となるデータは出そろっていたのですが、このデータを取りたいがために何度も「合成→熱分析・小角X線散乱測定」のサイクルを繰り返しました。根気強くやってくれた筆頭著者の夏 小超博士(重慶理工大学・講師)には本当に頭が上がりません。結局、熱分析からミクロ相分離していることが確認できた材料は見つかったものの、秩序性の高いミクロ相分離構造を示すようなものは残念ながら得られませんでした。この悔しさを糧に、self-switchできるモノマー種の選択肢をさらに拡張しようと挑戦を続けています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

今回の論文のキーポイントは、オキセタンと環状酸無水物の交互共重合が精密に進行し、なおかつ、エポキシドと環状酸無水物の交互共重合とうまくself-switchできることを見出した点です。この知見が得られた段階で、今回の論文で示したような多様な配列のブロックポリマー合成に展開できることに気づき、夏さんが膨大な合成実験を破竹の勢いで進めてくれました。問題は、この膨大な実験データをどうまとめ、わかりやすく論文で示すか、でした。実際に、投稿論文のレフェリーからも反応スキームや模式図、反応の追跡を説明するデータなどをわかりやすく示すようにと注文を付けられました。サポーティングインフォメーションの図も含め、直感的に何が起こっているか理解しやすくするよう、何度も見直し、改善を加えていきました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

これだけ様々な高分子合成法が確立されているにもかかわらず、とある目的のために新しい高分子を合成しようと思うと既知の方法論ではなかなか太刀打ちできないというケースにしばしば直面します。企業や材料応用の研究者と共同研究すると、特にこのことに気付かされます(共同研究者:「こんな構造の高分子を作って欲しい」→自分:「いや、それは無理なのでは・・・」「いったい何ステップ必要に・・・」「でも、まぁ泥臭く頑張るか・・・」、といった具合)。時に泥臭い高分子合成も、self-switchable重合であればスマートに解決できるポテンシャルがあると期待しています。もちろん、まだまだ世の中には「(潜在的に)合成できない・・・」が無限に存在します。今後も「合成できない・・・」を少しでも「スマートに合成できる!」に変え、その先にある未知の高分子材料の創出に挑んでいきたいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

今回の成果はカルボン酸塩という非常に単純な触媒を使って脂肪族ポリエステルを合成するという、我々のグループが5年ほど前から取り組んできた一連の研究の集大成です。実は、カルボン酸塩を触媒に使うようになった経緯は偶然の賜物で、別に注目していた重合触媒の活性を良く見せるための引き立て役として選んだのが事の発端です。ネガティブデータを期待して実験すると、カルボン酸塩のほうが明らかに良い重合触媒活性を示し、直ちにテーマ変更することになりました[3]。そして、このテーマを飛躍的に広げてくれたのが、中国から来てくれた夏さんです。カルボン酸塩を使ったself-switchable重合を進めたいと提案してくれたのですが、単純極まりないこの触媒で高度な重合制御ができるのか当初は非常に懐疑的でした。しかし、希望が持てる結果が一度得られると、そこからはディスカッションするたびに新たなアイデアが次々と湧いてきて、今回の成果にまで至りました。「思いついたことはとりあえずやってみる!」という姿勢が如何に重要かということに改めて気付かされました。まだまだ続報も出てきますので、今後の展開を見守っていただけると嬉しいです。

最後に、この研究に尽力した夏さんをはじめとするメンバーの皆様に深く感謝申し上げます。

参考文献

[1] Xia, X. C.; Suzuki, R.; Takojima, K.; Jiang, D.-H.; Isono, T.; Satoh, T. ACS Catalysis 2021, 11, 5999-6009

[2] Xia, X.; Suzuki, R.; Gao, T.; Isono, T.; Satoh, T. Nat. Commun. 2022, 13, 999

[3] Saito, T.; Aizawa, Y.; Yamamoto, T.; Tajima, K.; Isono, T.; Satoh, T.  Macromolecules 2018, 51, 689-696

Making complex #polymers with precisely #controlled structures becomes much simpler thanks to a new ‘one-pot-and-one-step’ #synthesis procedure.

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— Hokkaido University (@HokkaidoUni) October 25, 2022