研究者へのインタビュー
今回のスポットライトリサーチは、国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター(スマートセンシング研究チーム)・駒﨑 友亮さんにお願いしました。
ジメジメと雨が降る日々が続き、何をするにも嫌な気分になってしまいがちですね。なんと!今回はそんな身近な「湿度」の変化を使って発電できちゃうよ、という研究成果が産総研の研究チームから論文発表されています。Sustainable Energy Fuels誌 原著論文およびFront Cover・プレスリリースに公開されています。産総研公式 YouTubeチャンネルでも本研究成果は紹介されているようです。
“Energy harvesting by ambient humidity variation with continuous milliampere current output and energy storage”
Sustainable Energy Fuels 2021, 5, 3570. DOI: 10.1039/D1SE00562F
それでは今回もインタビューをお楽しみください!
環境中の湿度変化を利用して発電する電池を開発しました。原理としては、潮解性のある塩化リチウムの吸湿平衡と濃淡電池(逆電気透析)を組み合わせています。塩化リチウム水溶液の濃度と相対湿度の間には平衡関係があり、湿度が低ければ水分が蒸発して塩化リチウム水溶液は濃く、湿度が高ければ吸湿して薄くなります。つまり、この性質を使うと湿度の変化を水溶液の濃度変化に変換することができるわけです。塩化リチウム水溶液で濃淡電池を作製し、片方の部屋を空気に開放してもう片方の部屋を密閉しておけば、空気に開放された部屋の濃度のみが湿度に応じて変わりますから、2つの部屋の間に濃度差が生じて電気を取り出すことができます。
今回の研究では、実際にこの電池を試作し、湿度変化を用いて発電ができることを実証しました。得られる電力は微弱ですが、エネルギーハーベスティングの新手法としてIoTセンサなどの電源への応用が期待できます。
本研究で一番思い入れのあるところは、根本となる原理を思いついたことです。私は元々潮解性を利用した湿度センサの研究をしていたのですが、たまたま逆電気透析の仕組みを知って、この2つを組み合わせれば湿度を使って発電ができるのではないかと気付いたときにはワクワクしました。
塩化リチウム水溶液の濃度が湿度変化に十分に追従するようにするためには、水溶液の量を極力減らす必要があるのですが、そうすると電極を水溶液にしっかりと浸すことができなくなります。この両立が難しかったですね。最終的には水溶液をよく吸うろ紙の上に銀ペーストを使って電極を印刷することで解決しました。
こんな研究をしていながらお恥ずかしい話ですが、化学は専門ではなく、この研究を始めてから電気化学を必死で勉強しています。どちらかと言うと苦手意識がありますので、これからも勉強を続けて知識を深めていきたいと思っています。
最後まで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございます。湿度変動電池はまだまだ生まれたばかりの技術ですので、よりパワーアップを目指して研究を続けていきたいと思っています。
この研究成果はNEDO「エネルギー・環境新技術先導プログラム/未踏チャレンジ2050」の委託業務の結果得られたものです。この場を借りて関係される方々に深く御礼申し上げます。
名前:駒﨑 友亮
所属:国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター スマートセンシング研究チーム
研究テーマ:湿度変動電池の開発、布状湿度センサの開発