富士フイルムソフトウエアは、富士フイルムグループ唯一のソフトウェア開発に特化した企業です。1990年の設立以来、「ヘルスケア」「マテリアルズ」「イメージング」など事業を横断した富士フイルム製品のソフトウェア開発やITサービスの提供を手がけています。
X線撮影装置や超音波診断装置、内視鏡システム。富士フイルムソフトウエアは、これまで数々の富士フイルムの医療機器開発プロジェクトに参画してきました。今回ご紹介するのは、2021年に発売された「軽量X線透視診断装置」のソフトウェア開発ストーリー。ケーブルレスでX線での動画撮影ができるという、新しいコンセプトを掲げた製品のソフトウェア開発に従事した4名にお話を伺いました。
- 捧 亮二郎(ササゲ リョウジロウ)
[写真上段左]新卒入社17年目
プロジェクトリーダー。制御ソフトウェアなど複数のチームのリードを担当。- 潮江 祥史(シオエ ヨシフミ)
[写真上段中央]新卒入社26年目
設計リーダー。ユーザーが操作する画面の「コンソール」の組込みソフトウェア開発を担当。- 清水 公洋(シミズ タカヒロ)
[写真上段右]新卒入社10年目
設計リーダー。X線で撮影したデータの通信を取り扱う「モジュール」の組込みソフトウェア開発を担当。- 伊豫田 大佑(イヨダ ダイスケ)
[写真下段右]中途入社11年目*1
設計リーダー。X線を撮影する際に使用する「パネル」の組込みソフトウェア開発を担当。- 石丸 景子(イシマル ケイコ)
[写真下段左]新卒入社13年目
開発担当者。(女性社員も活躍しています。)
捧:ソフトウェアの開発だけで数億円の予算、従事する開発メンバーはのべ45名。入社以来さまざまな医療機器開発に携わってきましたが、これほど大規模なプロジェクトは初めてでした。プロジェクトが立ち上がり、まず取り掛かったのが、「要件分析」。製品開発の全体を取りまとめる富士フイルムの担当者と打ち合わせを行い、実現したい機能をヒアリングしました。そこでわかったのは、「X線での動画撮影」という富士フイルムグループの製品にこれまでになかった機能を搭載すること。くわえて、メカ・エレキ・ソフトウェアがそれぞれ同じタイミングで開発に着手するとわかり、非常に難易度が高いプロジェクトになると感じました。要件がかたまると、「設計」フェーズに移ります。「設計」のなかでも段階があり、「構想設計」→「基本設計」→「詳細設計」と進めるのですが、第一段階の「構想設計」で早速大きな壁にぶつかりました。「リスク分析」が難航したのです。既存製品の機能追加や機能改善であれば、どういったところにリスクが潜んでいるかはある程度見当がつきます。しかし、今回の製品(X線での動画撮影装置)はゼロからつくるもの。実際に医療従事者の方々がどのように使用するか、想像しながらリスクを分析する必要がありました。富士フイルムが持っている病院運用のデータを確認したり、病院内のワークフローに精通している担当者に話を聴きながら、潮江さんと二人で根気強くソフトウェアリスクの洗い出しをしました。
潮江:医療機器に搭載されるソフトウェアは「医療機器プログラム」と呼ばれるもの。意図した通りに機能しない場合は生命や健康に影響を及ぼす恐れがあるため、品質の高さは絶対条件です。だからこそ、「ソフトウェアリスク分析」にはとことん時間をかけました。「リスク分析」をやっと終え、結果をシステムの仕様に落とし込むときも、一筋縄ではいかなかったですね。製品がおもに使用されるのは、手術中。やり直しがきかない現場だからこそ、高品質でないといけない。課題が出るたびにメンバーと議論を重ね、知恵を持ち寄りました。私たちの製品開発の現場は、トップダウンではありません。それは、社内だけではなく社外も同じ。富士フイルムとも対等の立場で開発を進められます。メカ・エレキは富士フイルム主導ですが、ソフトウェアに関しては当社主導。仕組みの提案や、機能追加の提案も積極的にできます。今回のプロジェクトでは、当社の提案から「メンテナンス機能」が採用されました。一緒に製品をつくり上げていくという意識が強いため、大変なことばかりでも、どれもチャレンジしがいがありましたね。
伊豫田:定期的にプロジェクトリーダーが進捗を確認してくれていたことで、プロジェクトはほぼスケジュール通りに進みました。いくつかトラブルはあったのですが、なにかあったらその都度プロジェクトリーダーと設計リーダーが集まり、早めに対策することで、重大なトラブルになるまえに解決していくことができました。じつは、私はみなさんと違い、設計リーダーになるのは初めてだったんです。しかも、長年アプリケーション関連の開発には従事してきましたが、組み込みシステム開発を担当するのも初めて。新しい挑戦が多いなかで、主体的に動いて判断しなければならないむずかしさはあったものの、ひとつの分野の責任者としてプロジェクトに関わっていくのは、とてもやりがいがありました。新しいコンセプトの製品開発だったので、市場に与えるインパクトの大きさもモチベーションになっていましたね。また、パネル部分は成果が見えやすいゆえのおもしろさがありました。自分が設計したプログラムで、LEDを光らせたり無線通信をしたり。「機械を動かしている!」ということがダイレクトに実感できたので、ワクワクしながら開発に挑めました。
清水:このプロジェクトに参画するまで、X線に関する製品開発をしてきました。過去に開発されたプログラムをベースに機能追加していくという開発が多かったのですが、ほかの方がつくったプログラムを見ていると、「自分ならこうしたい」という思いが出てくることもありました。なかなか実践するチャンスはありませんでしたが、ずっと温めてきた思いがあったからこそ、設計リーダーとして新製品開発に参画できるとわかったときは、とてもうれしかったですね。担当したのは、X線撮影をしたデータの通信を行うモジュール部分。伊豫田さんとは担当領域が近く連携をとることが多かったため、ほぼ毎日顔を合わせていました。既存製品のプロジェクトと比べると、新製品開発はわからないことだらけ。より意識合わせが大切だと感じました。だからこそ、チームのメンバーや設計リーダー同士はもちろん、実装を担当する協力会社さんも巻き込んで、一つの部屋で一体となって設計を進めたり、富士フイルム側の担当者とも何度も打ち合わせをしました。「設計」を終え、「実装」「テスト」とフェーズが進み製品が形になってくると、達成感より「想定通りに動いて、よかった」という安堵感の方が大きかったことを覚えています。
捧:40歳になり、ついこのあいだ健康診断で初めて内視鏡検査をしました。そのとき使用した製品が、私が入社3年目のとき苦労してつくったもので。恐る恐る技師さんに使い心地を聞いてみると、「とても使いやすいですよ」と言ってもらえたんです。17年も経っていましたが、改めてつくってよかったなと思えました。私たちが手がける医療機器は、どれもライフサイクルは長め。開発時の苦労はあるかもしれませんが、それが長きにわたり、多くの人の健康を守ることにつながるのは、やっぱり誇らしい気持ちになります。
潮江:富士フイルムソフトウエアでは、一般的な請負としてプロジェクトを担当するのではなく、富士フイルムと一体となってひとつの製品をつくり上げていきます。このため、当社はSIerというよりも富士フイルムのソフトウェア部門というイメージ。いまや、あらゆる製品開発にとってソフトウェアは欠かせません。メカとエレキだけでは、ものは動きませんからね。グループ唯一のソフトウェアのプロフェッショナル組織として、製品開発の最上流から入り込めるため、ほかではなかなか経験できないようなスケールの大きなことに挑戦できると感じています。
伊豫田:医療機器をつくるには、厳しい基準をクリアする必要があります。しかも、やっとリリースできても、新規参入したばかりのメーカーなら受け入れられるまでに時間がかかる場合も。その点、富士フイルムなら業界をリードしてきた実績から、多くの医療機関で受け入れられています。つまり当社は、安定した土壌があるなかで医療機器開発に打ち込める数少ない会社なのです。責任は大きいですし、大変な場面、苦労することもありますが、誰でもできる仕事ではないからこそ、おもしろいと感じています。
清水:当社は、富士フイルムが展開する横断的な製品分野のソフトウェア開発を一手に引き受けています。医療機器以外なら、デジタルカメラや印刷機などの製品、医療ITソリューションやネットプリントサービスなどのITサービスと幅広いソフトウェア開発に強みを持っています。さらに、最上流から下流まで一貫して開発に携われるのも当社ならではの環境です。同じ製品・サービス分野でとことん技術を追求することも、多様な技術に触れることも実現できるため、エンジニアにとっての成長機会は豊富で刺激的な環境だと思います。